YEN

エッセイ

優しいコインロッカー

先日、施設内のコインロッカーを使った。

100円玉を投入して貴重品を預け、用事が済んで鍵を開けたら100円玉がころりんと吐き出された。

手のひらに戻ってきた100円玉を眺めながら「この100円はどうして返ってきた?」と首をかしげる。

あとから調べたらこの100円は「複数利用防止」や「鍵紛失防止」のための価値らしい。

犯罪防止のためだけに与えられた価値。

数時間荷物を守ってくれたことに対する費用は、何円だったのかな。

安い情報と見えない損害

「○○して月収20万円稼ぐ方法」を有料note(500円)で売っている人がいる。

たとえば500円の情報でほんとうに月収20万円稼げたとしたら、その方法で稼いだ19万9500円は読者側の利益だ。

でも本当にそうだろうか?

「月収20万円稼ぐ方法」をみずから考える機会を奪われることは、何円の損害か?

そして自分が月収20万円を稼ぐ人材だった場合、なぜそれを500円で売ろうとするのか?

見えない項目に何円の損害を見出すのかは、己の尺度次第。

10500円の夜(4年前)

3週間連続勤務、ほぼ全日終電帰りだったころがある。

家に帰ると不安で眠れず、最寄のコンビニで安い酒を買った。

ひとりで酒を呑むと沈黙が怖いので、スマホのゲームを開く癖があった。

もう明日なんて来なければいい。

もうろうとしながら、あのゲームに10500円の課金をした夜。

一日分の労働の対価は、その労働によるストレスを解消するために消える。

10500円の夜(昨日)

4年前のその夜のことを思い出した、今。

一風変わった酒を飲めるバーで、パートナーと飲み明かす。

先月は忙しかった。

おかげ様で、独立してから正社員時代の3倍稼ぐようになった。

さて。その方法論は何円で売れるかって?

私は売らない。というか、売れない。

なぜなら、これは私の努力の結晶だから。

私を信頼してくれた取引先が支払ってくれた対価だから。

他の人が同じようにしたって、そうはならない。

私は努力家のコインロッカーだが、優しいコインロッカーではない。

正しい対価のなかで生き残る。慎ましく謙虚に。

ストレスに私の価値を奪われる夜は、もう二度と過ごさない。

生まれて初めて飲むお酒に、笑い、楽しみ、お支払い。

2人で10500円。

私はこの夜に、たいそうな価値を感じたよ。

YENなど大した基準ではない。

時間、経験、志。

はかれないものを明日も大切に。


本記事はnoteで開催された「トンネルマガジン」への参加作品です。
詳細はこちら(https://note.com/happaya/n/ndc01240c3111

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