学園ホラーミステリ『Another』は、わからないものの不気味さとわかる爽快さを一冊で楽しめる

作品レビュー

学園ホラーというジャンルをときどき無性に読みたくなる。学校という舞台が持つ濃い影や、みな同じ制服で教室の中に詰め込まれる閉塞感、若いからこそ恐れを持たず向かう瞬間……。そういう装置の数々が学園ホラーのスリルや魅力を引き出して、怖さをエンターテインメントとして消化しやすくする。私はホラー全般が苦手なので、初心者向けの怖さはありがたい。

Another』(綾辻行人/角川書店)は、この学校にまつわる装置をいかんなく活用するだけでなく、より緊迫感のある展開を促すミステリ要素や設定を随所に盛り込んでいる。

家族の都合で1年間だけ地方の町にある祖父母の家で暮らすことになった中学三年生の主人公、榊原恒一(さかきばら・こういち)。持病の肺気胸が原因で新学期早々入院し、クラスメイトとはずれたタイミングで夜見山北中学校三年三組の一員となる。しかし、そのクラスには得も言われぬ違和感がある。榊原は入院中に偶然会った眼帯少女、見崎鳴(みさき・めい)に積極的にコミュニケーションを取ろうとするが、周囲はそれを警戒する。やがてあるクラスメイトの死をきっかけに、三組を恐怖の現象が襲う。

本作のおもしろさを支えているのは、クラスを対象に起こる不幸の“ルール”である。恐怖体験が説明できない不条理である場合、物語の読者はただただその恐怖を受容し、震え続けなければならい。一方、本作ではある程度これから起こる不幸や、それを防ぐ方法が予測できるルールが物語と共に明かされていく。そのルールがわからない序盤は形の見えない恐怖や不気味さを味わい、ルールが見えてきてからは先を予想するミステリ的な楽しみ方ができる。このルールの都合上、読者はいったい何を信じて、何を疑えばいいのかわからなくなってくる。その不安定さもまた、精神的に追い詰めてくるひとつの要素だ。

そして本作の魅力を一層高めてくれているのが、ヒロイン見崎鳴だ。眼帯をつけた、蝋人形のように白い肌と黒髪が印象的な少女。言葉は少なく、どんな状況でもクール。表情もほとんど変わらない。めちゃくちゃ王道の無口ヒロイン設定なのだが、彼女が本作の謎にまつわるキーパーソンということもあり、つい熱心に彼女を目で追ってしまう。主人公の視点を通してちょっとばかりの青春を味わえるのもいい。

けっこうなボリュームの長編小説だが、「どうなるんだろう」と気になって最後まで止まらない。小説だからこそ作れる構成だと思う一方、設定は幅広い層の目を引くキャッチ―さがあって、アニメ化、映画化と他メディアでも人気を博したのも納得できる。

そんな『Another』の新作、『Another2001』(KADOKAWA)が2020年9月に発売された。一作目の続編『Another エピソードS』に次いで、本編から3年後の夜見北中を描く。説明できない怪奇現象への不気味さを楽しめた一作目と異なり、今回は多くの読者がそのタネを知っている状態で物語に入る。どんなふうに楽しめるのか気になるので、こちらもチェックしてみようと思う。

ところで。死というものは、生者の世界とそう遠いところにあるわけではない。突然湧いてくるものでもない。きっとじわじわと滲むように広がって、ある一定の濃度を超えると命の火を吹き消すのだろう。そういう死の感覚を本作で覚えてからは、日常を見る目が少し変わった。気をつけて――……。耳元でときどき、そんな忠告が聞こえてしまうのだ。

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